偽アルドステロン症とは

 

薬局やドラッグストアなどで、漢方薬をよく見かけるようになりました。

一般の市販薬より効き方が優しいのでは?とか、副作用がないので安全なのでは?というイメージがあり、需要が伸びているようです。

でもそれは本当でしょうか?

 

実は、漢方薬にも副作用があります。

もし今、手元に漢方薬の添付文書(取扱説明書)があったら見てみてください。

漢方薬にも「副作用」の欄があります。

そこには、発疹、吐き気、めまい、腹痛、下痢などの軽度の副作用のほかに、

 

「まれに重篤な症状が起こることがあり、その場合はただちに医師の診療を受けてください」

 

と書かれてあります。

漢方薬にも、「まれに」ではありますが、このような重篤な副作用が出るケースもあるのです。

 

そこでこのページでは、漢方薬による重篤な副作用の中から、「偽アルドステロン症」という症状について、その原因や対処法、注意点などを詳しくご紹介します。

 

偽アルドステロン症とは何か?

 

偽アルドステロン症という副作用

 

「偽アルドステロン症」は「ぎ・アルドステロンしょう」と読みます。

または「偽性(ぎせい)アルドステロン症」とも言うことがありますが、同じ症状のことです。

「偽」という文字通り、「アルドステロン症ではないのに、アルドステロン症のような症状が現れている」という状態のことを意味します。

 

「アルドステロン症」とは?

「偽アルドステロン症とは何か?」を説明するときには、まず、「アルドステロン症とは何か?」について説明する必要があります。

 

聞きなれない言葉ですが、「アルドステロン」とは、ステロイドホルモンの一種。

アルドステロンは副腎皮質から分泌されて、水と塩分を体内に溜め込み、カリウムの排泄をうながして、血圧を上昇させます。

 

アルドステロンの働き

 

アルドステロンは腎臓の尿細管に作用し、

 

  • ナトリウムや水分を再吸収させる
  • カリウムの再吸収を抑制する
  • リン酸の排泄を促す

 

などして、体液の浸透圧を調整します。

 

このアルドステロンが過剰に分泌されることで起きる症状を「アルドステロン症」と言います。

具体的には、

 

  • 高血圧
  • むくみ
  • カリウム喪失

 

といった症状が現れます。

 

では、「偽アルドステロン症」とは?

 

血液検査

 

「アルドステロン症」かどうかの診断は、血液検査を行い、アルドステロンの数値が増えていることによって判断できます。

ところが、アルドステロン症の症状があるにも関わらず、血液検査を行ったらアルドステロンの数値が増えていないというケースがあります。

その場合、「偽アルドステロン症」を疑うわけです。

 

厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症」にはこのように書かれています。

 

患者の皆様へ

血圧を上昇させるホルモン(アルドステロン)が増加していないにも関わらず、高血圧、むくみ、カリウム喪失などの症状があらわれる「偽アルドステロン症」は、医薬品によって引き起こされる場合があります。

主に甘草やその主成分であるグリチルリチンを含む漢方薬、かぜ薬、胃腸薬、肝臓の病気の医薬品でみられ、また一般用医薬品でもみられることがあるので、何らかの医薬品を服用していて、次のような症状が見られた場合には、放置せずに医師・薬剤師に連絡してください。

「手足のだるさ」、「しびれ」、「つっぱり感」、「こわばり」がみられ、これらに加えて、「力が抜ける感じ」、「こむら返り」、「筋肉痛」が現れて、だんだんきつくなる

重篤副作用疾患別対応マニュアル 平成18年11月 厚生労働省 – Pmda
https://www.pmda.go.jp/files/000145004.pdf

 

偽アルドステロン症、どのような症状が出るの?

では、偽アルドステロン症は、どのような症状が出るのでしょうか?

 

手のしびれ

 

初期症状

  • 手足に力が入らず、物をつかみにくい。すっと立てない
  • 血圧が急に上がる
  • 体がだるく、しびれやむくみがある
  • 急な筋肉痛やこむら返り
  • 麻痺
  • 頭痛
  • 動悸
  • 吐き気、おう吐
  • 喉の渇き

 

進行後の症状

  • 意識がなくなる
  • 歩いたり立ったりできない
  • 体を動かすと息苦しい
  • 赤褐色の尿、頻尿、排尿障害など膀胱への悪影響
  • 糖尿病の悪化

 

いろいろな症状をあげていますが、いずれにせよ通常と違った症状が急に出てきたら、それは副作用が疑われます。

まずは直ちに服用している漢方薬を飲むのを止め、医師の診察を受けましょう。

 

偽アルドステロン症の「高血圧症」と「低カリウム血症」について

 

血圧

 

偽アルドステロン症の主な症状の中に、「高血圧症」と「低カリウム血症」があります。

それらについても詳しく説明しておきましょう。

 

高血圧症とは

高血圧症とは、血管の中を流れる血液の圧力が強くなり続けている状態のことを言います。

進行すると血管壁が固くなったり、傷ができたりし、そこにLDLコレステロールなどが沈着すると、動脈硬化になりやすくなります。

高血圧症の原因としては、

 

  • 塩分の摂り過ぎ
  • 肥満
  • 喫煙
  • 過剰な飲酒
  • 運動不足

 

などがあります。

とはいえ、そのうち95%は原因を特定できない本能性高血圧と呼ばれるもので、さまざまな生活習慣が複合し、現れる症状だと考えられています。

普段から血圧が高めではないのに、いきなり血圧が上昇したとすれば、副作用など何かしらの理由を疑ってください。

 

低カリウム血症とは

低カリウム血症は、血液中から細胞の中にカリウムが取り込まれてしまうことで起きる症状です。

カリウムの摂取量が少なかったり、逆にカリウムが排泄される量が多かったりしても起こります。

原因としては、

 

  • 偏った食生活
  • 消化器の衰えによる下痢や嘔吐

 

などがあります。

 

また、腎臓から尿中にカリウムが失われてしまう場合、何らかの原因で血液がアルカリ性に傾いたり、血液中のインスリンが過剰に分泌される場合があります。

それにより、

 

  • 脱力感
  • 筋力低下などの骨格筋の症状
  • 悪心やおう吐
  • 便秘などの消化器官の症状
  • 多尿や多飲などの腎臓の症状

 

などが現れます。さらにひどくなると、

 

  • 四肢麻痺(ししまひ)
  • 呼吸筋麻痺
  • 不整脈
  • 腸閉塞

 

なども引き起こすとても怖い症状です。

 

とはいえ、低カルシウム血症もいきなり起こることはありません。

もしこのような症状が何の前触れもなく起きたら、服用している薬の副作用や、他からの要因を疑いましょう。

 

偽アルドステロン症の原因

このような重篤な副作用となる「偽アルドステロン症」の原因は、一体何なのでしょうか?

 

偽アルドステロン症の原因は「甘草」

 

甘草

 

偽アルドステロン症の原因には、漢方薬に配合されている生薬、甘草(かんぞう)があげられます。

マメ科カンゾウ属の植物の根や根茎を乾燥させたものを生薬として用います。

 

とはいえ、実は甘草は、漢方薬でも約7割にの製剤に含有されている生薬です。

また、漢方製剤以外でも、甘草エキス成分や抽出物として、さまざまな薬やお茶(甘草茶)、甘味料、化粧品などにも使用されています。

利尿薬にも甘草が配合されているものがあります。

 

甘草の効能

甘草の効能としては、

 

  • 喉の痛み、咳を鎮める、痰を取り去る
  • 胃痙攣、胃潰瘍、胃痛、十二指腸潰瘍
  • 解毒

 

 

などがあります。

また、他の薬物の効能を高めたり、毒性を緩和したりするので、さまざまな漢方薬への配合されることが多いようです。

 

甘草の成分

甘草の主成分はグリチルリチン酸

 

甘草の主成分はグリチルリチン酸という成分です。

腸内細菌の産生するβーグルコシダーゼによって、グリチルリチン酸に代謝され、体内に吸収されます。

その病理作用の中の鉱質コルチコイド様作用で、偽アルドステロン症が起きるのです。

 

甘草を含有する薬にはどんなものがある?

 

甘草を含む漢方薬

 

ここでは甘草が配合されている漢方薬と一般薬をご紹介します。

上記でもご紹介した通り、甘草は非常にたくさんの漢方に配合されていることがわかります。

特に含有量が多いものは併飲しないよう注意が必要です。

 

甘草を含有する漢方製剤

 甘草の含有量(1日量)  甘草が配合されている漢方薬
 8g  甘草湯
 6g  芍薬甘草湯
 5g  甘麦大棗湯
 3g  黄連湯、桔梗湯、芎帰膠芠湯、桂枝人参湯、五淋散、炙甘草湯、小青竜湯、人参湯、排膿散及湯
 2.5g  半夏瀉心湯
 2g  温経湯、越婢加朮湯、黄耆建中湯、乙字湯、葛根湯、葛根湯加川芎辛夷、桂枝湯、桂枝加芍薬湯、桂枝加芍薬大黄湯、桂枝加朮附湯、桂枝加竜骨牡蠣湯、五虎湯、柴胡桂枝湯※、柴胡桂枝乾姜湯、柴朴湯、柴苓湯、小建中湯、小柴小湯、小柴故湯加桔梗石膏、神秘湯、大黄甘草湯、通導散、当帰建中湯、麦門冬湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、白虎加人参湯、防風通聖散、麻杏甘石湯、麻杏薏甘湯、薏苡仁湯、苓甘姜味辛夏仁湯、苓姜朮甘湯、苓桂朮甘湯
 1.5g  加味逍遥散、香蘇散、柴陥湯、柴胡清肝湯、四逆散、滋陰降火湯、十全大補湯、潤腸湯、升麻葛根湯、清心蓮子飲、川芎茶調散、大防風湯、治打撲一方、桃核承気湯、防己黄耆湯、補中益気湯、麻黄湯、抑肝散、抑肝散加陳皮夏半、立効散
 1g  安中散、胃苓湯、加味帰脾湯、帰脾湯、荊芥連翹湯、啓脾湯、五積散、参蘇飲、酸棗仁湯、四君子湯、滋陰至宝湯、十味敗毒湯※、消風湯、清暑益気湯、清肺湯、清上防風湯、疎経活血湯、治頭瘡一方、竹筎温胆湯、釣藤酸、調胃承気湯、当帰飲子、当期湯、二朮湯、二陳湯、女神酸、人参養栄湯、平胃酸、六君子酸、竜胆瀉肝湯

注)主にツムラの漢方製剤の含有量参考。※印はクラシエの漢方製剤ではいずれも1.5g含有

 

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甘草を含有する製剤・薬剤

 肝疾患・アレルギー疾患用剤  グリチロン錠、ネオファーゲンC錠、リコチオン錠、強力ネオミノファーゲンジー静注、グリチロン注1号、ネオファーゲンC注など
 抗潰瘍・健胃消化薬  ネオユモール末・錠、つくしA・M錠、S・M散、TM散、KM散など
 下剤  複方カンゾウ散「純生」、複方甘草散「スズ」
 鎮咳・去痰薬 オビセゾールコデイン散・液

 

一般薬でも下記のようなものに、甘草エキスや、甘草の主成分・グリチルリチン酸が配合されているものがあります。

 

  • 総合感冒薬
  • 鼻炎内服薬
  • 口内炎薬
  • 喉の炎症を抑える薬
  • トローチ
  • 塗布薬
  • 目薬や目の洗浄液
  • 点鼻薬
  • 貼り薬

 

グリチルリチン酸は抗炎症作用があるため、のどの痛みやひき始めの風邪対応の感冒薬に配合されています。

甘草が含有されている漢方薬を常用している人が、これらの薬を飲む場合には、必ず添付文書等で成分を確認しましょう。

不安だという方は、薬剤師や登録販売者に相談されることをおすすめします。

 

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漢方薬をドラッグストアで買う際の注意点  を登録販売者の方に聞いてみました

 

甘草を含む漢方薬を服用する際の注意点

 

漢方薬を飲む

 

漢方に含まれる甘草の1日用量は1~8g(グリチルリチン酸40~320mg)に相当します。

ひとつの漢方薬への配合量としては影響の出ない量に抑えてありますので、それだけを飲んでいる場合はほとんど問題ありません。

 

注意しなければならないのは、「薬の飲み合わせ」です。

特に注意したいのが、複数の漢方薬や市販薬を服用すること。

ひとつの漢方薬では基準値以内のものであっても、それを複数飲むことによって過剰摂取となり、甘草の合計摂取量が危険領域に達してしまう場合があるからです。

 

甘草の過剰摂取

 

甘草を過剰摂取しないために

もし、医師から処方された漢方薬を服用していながら、医師に申告せずに市販の漢方薬も購入してあわせて服用しているとしたら、とても危険です。

常用している薬がある場合は、必ず医師や薬剤師に伝えましょう。

 

また、中には市販薬を自己判断で長期服用したことで「偽アルドステロン症」を発症したというケースもあります。

「漢方は安全だから、いろいろ飲んでみよう」という勝手な判断をすることは、絶対に避けてください。

 

偽アルドステロン症の診断は、どのように行われるの?

 

医師の診察

 

では、偽アルドステロン症の診断は、どのように行われるのでしょうか。

 

アルドステロン症の診断

まず、アルドステロン症であれば、体内のアルドステン(ホルモン)の分泌量が異常に多くなっています。

それは血液検査をすればすぐにわかります。

病院に行く場合には、そのときに服用している薬がわかるものを持参してください。

 

偽アルドステロン症の診断

一方、

 

  • ナトリウム濃度が上昇している
  • カリウム濃度が減少している

 

などの「アルドステロン症」の症状が現れているにも関わらず、アルドステンの量に異常がみられない場合、「偽アルドステロン症」を疑います。

その際に大事なのは、その人が甘草もしくはグリチルリチンを摂取しているかどうか、です。

甘草もしくはグリチルリチンは、漢方薬や一般医療品にも多く含まれていますので、普段自分がどのような薬やサプリを服用しているかを把握していることがとても大切です。

 

偽アルドステロン症、早期発見のポイント

アルドステロン症、または偽アルドステロン症を発症した場合、まず以下のような症状が出てきます。

 

  • 四肢の脱力やけいれん
  • 血圧上昇に伴う頭重感
  • 筋力低下による歩行困難
  • 起立不能になり、入院となることも

 

これらの初期症状を単なる疲れと勘違いし、見過ごして重症化してしまうケースもあると言います。

アルドステロン症、または偽アルドステロン症を早めにみつけるポイントは、

 

  • 手足のしびれ
  • つっぱり感
  • こわばり
  • 四肢の脱力や筋肉痛

 

といった初期症状を見逃さないことです。

普段の体の状態や血圧の数値を把握し、少しでも異常が見られたら、すぐに診察を受けるようにしましょう。

 

特に、

 

  • 持病がある
  • 複数の薬を服用している
  • 長期にわたって飲み続けている

 

に当てはまる方は、常に注意が必要です。

 

偽アルドステロン症はいつ、どんな人に発症しやすい?

偽アルドステロン症の発症時期は、

 

  • 甘草を含む薬の服用開始から10日前後といった早期に発症するもの
  • 服用数年以上たってから発症したもの

 

など幅があり、一定の傾向はみられないようです。

とはいえ、その中でも、服用後3ヶ月以内に偽アルドステロン症を発症したケースは40%にのぼります。

新しい薬を飲みはじめたら、3ヶ月は自分の身体の変化に注意しておくといいですね。

 

また偽アルドステロン症のリスク要因については、男:女=1:2で女性の発症が多いそうです。

発症した方の年齢は29~93までと幅広いのですが、全体の80%が50~80歳代です。

 

偽アルドステロン症を発症する80%が50~80歳代

 

日頃から何かしらの薬を常用していることが多い年代です。

以上の結果から、偽アルドステロン症は低身長・低体重の小柄な高齢者に生じやすいとされています。

 

偽アルドステロン症の治療について

 

ストップする医師

 

偽アルドステロン症の治療の第一としてあげられるのは、薬の服用をただちに止めることです。

自己判断で止めて様子を見るのでなく、まずは医療機関で診察と検査を受け、医師の判断を仰ぎましょう。

 

症状がひどかったり、通院での改善が見込めない場合は入院する場合もあります。

甘草やグリチルリチンをどのように摂取したかが問題になりますので、服用した薬と服用時期、期間をしっかり伝えることが重要です。

 

同じ薬を同じように服用しても、副作用がまったく出ない人もいますし、すぐに出る人、長期服用したことで出てしまう人もいるなど個人差があります。

したがって、治療もその人に合わせた方法になります。

特に持病があり、薬の服用が義務づけられている人は、処方薬の変更も考慮しながらの治療になりますので、少し時間がかかるかもしれません。

 

まとめ

以上、漢方薬の重篤な副作用としてあげられる、偽アルドステロン症について見てきました。

今回問題視された甘草は、たくさんの漢方薬に含有されている生薬です。

また、甘草の主成分グリチルリチンも一般薬によく配合されていますので、服用時には注意しなければなりません。

市販薬で副作用が出るケースもありますので、少しでもおかしいと思ったらすぐに服用をやめて、医療機関を受診してください。

 

参考サイト

偽アルドステロン症 – 厚生労働省
www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1019-4d9.pdf

偽アルドステロン症 – Pmda
https://www.pmda.go.jp/files/000144115.pdf